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”家電化”する3Dプリンター

この先10年で3Dプリンターがどこの家庭にも一台あるような時代が来るか、と言ったら、私は否定的に考えている。スイッチを押すだけで食事が出来る、絵を描いたらその通りの服が出来る、などといった家庭での3Dプリンターニーズを満たせるような性能の家庭用機が世に出るためには、様々な分野での大きな技術革新が必要だろう。

しかし、「新・新三種の神器」には成り得ないであろう3Dプリンターは、日々”家電化”を続けている。ここで言う3Dプリンターの“家電化”とはどういうことか。これは多くの家庭に普及し、使われているという意味合いではない。そうした多くの家庭で必要品として使われている家電製品に、機能で近づくような進化をしているという意味での“家電化”である。

 

2005年に基本特許が切れてから2、3年ほど前まで、個人向け3Dプリンター(FDM式)のほとんどが組立をユーザー自身の手で行うものであり、その進化の中心は機械精度や安定性といった造形物の出来に直接関わる要素だった。だがここ最近の進化はスタンドアローン化やそれに伴うSDカードへの対応、自動原点出し機構、オートキャリブレーション機能に果てはスマートフォンからのプリントやWebカメラでの状態チェックと、直接的に造形物の仕上がりを左右しない、言わば「使いやすさ」にフォーカスしたものとなっている。

その嚆矢となったのが2012年にMakerbot社から発売されたReplicator 2だろう。これは前身であるReplicator(初代)やThing-O-Maticといった機種から搭載されていたSDカード読込機能を引き継いでいるだけでなく、Makerbot社がオープンソースでの公開を取りやめ、外装も成形済みのプラスチックに刷新して組立済みの“製品”として世に出された機種として画期的な存在であった。横長の黒い箱、といった印象を受ける筐体は家庭用3Dプリンターの代表的存在となり、成功を収めた。

 

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Makerbot社のThing-O-Matic

 By Makerbot IndustriesMakerbot Flikr, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18159732

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Makerbot社のReplicator

 By Peabodybore – I took the photo in a 3D printing shop in London, with the permission of the shop owner., CC0, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=41030971

 

そして今やスタンドアローン、SD読込といった機能は、現行の3Dプリンターにおいてあたりまえのものになりつつある。

例えばYOKOITOで使用・販売しているMOMENTという機種にもSDカード挿入口とLCDパネルがついており、PCに接続しなくてもSDカードからデータを読み出してプリントしたり、現在のノズル温度やプリントがどの程度進行しているかなどをチェックしたりすることが出来る。

 

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MOMENTのLCD周辺

また、MOMENTにはもうひとつ特徴的な機能がある。それは、ガラス面に直接樹脂をプリントしていくという点だ。FDM式と呼ばれる樹脂を熱で溶かして積み重ねていく方式の3Dプリンターでは従来、土台の部分に糊を塗ったりテープを貼ったりすることで樹脂が剥がれてしまうのを防いでいたが、プリントの度に糊の塗り直し、破れたテープの貼り直しをする必要があった。対してMOMENTでは高い安定性とノズル位置調整の精度により、何も塗られていないガラスの面にそのままプリントが出来るため今までの煩わしい作業から開放された。プリントが終わったら造形物を外しSDカードから次のデータを指定さえすれば、席を外しても問題なくプリント完了される。

 

SD読込の更に先を行く機能としては、XYZプリンティング社が今年発表したダ・ヴィンチ1.0 Proにも搭載されているWi-Fiプリント機能がある。XYZプリンティング社は安価かつ造形面積の大きいダ・ヴィンチシリーズなどを販売して成功を収めてきたメーカーだが、今年2月にハイエンドモデルとしてこのダ・ヴィンチ1.0 Proを10万円を切る価格で発売した。先に述べたWi-Fiプリント機能の他にもプリントベッド面の水平調整をわかりやすい数値で表示する機能を搭載し、オプションで3Dスキャンやレーザー加工モジュールをつけることも出来る仕様となっており、今までのモデルに比べても運用が非常に楽になっていると言えるだろう。

 

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XYZプリンティングジャパン公式ページより http://jp.store.xyzprinting.com/jp_ja/catalog/printer/daVinci10pro

 

また、UP Plus 2やUP BOXといった機種で知られるティアタイム社が今年発表したUP mini 2は、造形面積は控えめながらもこうしたWi-Fiプリント機能にスマートフォンアプリからのコントロール機能も付加し、更に本体操作をカラータッチパネルで行えるようにすることで大幅な利便性の向上を図っている。他にもプリント時に発生した物質が混じった空気をろ過する機能も搭載されているという。こうした発展はこれから多くの導入が予想される教育機関などでの使用を見据えたものだろう。

 

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Tiertime社公式ページより http://www.tiertime.com/product/desktop-3d-printer/up-mini-2

 

ここまでいくつかの機種を例に3Dプリンターの“家電化”を見てきたが、最早調整やメンテナンスが難しく、運用に高いスキルと根気が求められる3Dプリンター、というのは過去のものであると言うことがお分かりいただけたと思う。

現在開発中のものも含めて、今後個人向け3Dプリンターはますます家電化の度合いを深めていくと私は予想している。その根拠のひとつとなるのが、個人向けFDM機の性能限界だ。

大型・高価格の業務用機種に比べて、個人向けの3Dプリンターはサイズ・価格に大きな制約を受けている分、性能も限られたものになるのは自明の理である。サイズが小さくなる分精度も上げることが困難になるし、使うことが出来る電流量の制約や安全面もあって現状ノズル温度は高くても260℃程度までしか上げられない。ノズル温度に制約があると当然それより高い融点の素材は使うことが出来ないので、出来ることの幅も減ってしまう。より高い精度やFDMでは出力できない素材を求めるなら粉末焼結方式や、光造形方式など他の方式もあるが、メンテナンスや機構の複雑さもあり個人向け機のハードルは高い

こうした理由があって、ある程度まで到達したFDM式3Dプリンターの単純な造形性能は上がりづらくなってきている。そこに使いやすさを求めるニーズも加えて、家電的な方向に発展が進んでいるのだろう。これは個人向け機の市場がある程度成熟してきたと言って差し支え無いだろう。

とは言え、FDM式3Dプリンターに全く性能向上の余地が無いか、と言えばそうでは無い。特に発展の余地があると言えるのは素材だ。現在も安価でプリミティヴなものから造形品質を向上させる最先端のもの、金属や木の質感を再現できるものまで様々な素材(フィラメント)が販売されているが、大袈裟ではなく本当にこれひとつで出力の品質が大きく変わるのだ。今後新しい素材が開発・販売されることでより高い品質の造形物を作ることが出来るのは間違いない。

 

ここまで3Dプリンターの家電化とその要因について書いてきたが、上で述べたような個人向け3Dプリンターの性能限界があるからと言って、個人向け3Dプリンターで出来ることの範囲が狭いわけでは無い、ということを強調しておきたい。

“家電化”が進み、学ぶ意欲さえあれば運用ができるようになった今、3Dプリンターはより多くの人々が使用可能なツールとなった。重要なのはこれで何を作るか、である。これまでにYOKOITOでもFDM式3Dプリンターの活用について様々な取り組みを行ってきているが(ex. FAB-LENS)、その中で見えてきた3Dプリンター最大の強みは、アイデアをすぐさまカタチに出来る、という点だろう。

弊社代表の大谷がこちらの記事でも触れているが、アイデアを簡単にカタチにすることが出来、実際に試し、人に見せることが出来る道具として、3Dプリンターは非常に有用な道具だ。“家電化”によるユーザービリティの向上はより多くのアイデアをカタチにする助けとなるだろう。

3Dプリンターの購入を考えているが運用面の不安から踏み切れないでいる、或いは過去に3Dプリンターを使ってみたが上手く行かず断念したという方、この機会に3Dプリンターの家電化の波に乗ってみてはいかがだろうか。わからないことをある程度自分で調べることが出来るならば問題なく運用できるだろう。またYOKOITO-Journalでは、今後もFDM式3Dプリンターについて様々な角度から掘り下げていく予定でいるので、こちらもチェックしていただければ幸いである。

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