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ハードウェアスタートアップとクラウドファンディングの今【コラム】

 

YOKOITOの大谷です。

先日、FABOOL Laser Miniという小型のレーザー加工機がクラウドファンディングサイトmakuakeで約6千万円を調達しました。これは日本国内クラウドファンディングサイト史上最高の調達額です。今回はデジタルファブリケーションについての直接の話題ではありませんが、今や切り離しては語れない、クラウドファンディングサイトでの資金調達を行うプロダクトとハードウェアスタートアップの関係について書きたいと思います。

 

クラウドファンディング自体はご存じの方が多いのではないでしょうか。Webサイトに自分のやりたいプロジェクトの内容を書き、そのために必要な、若しくは足りない金額を明示し賛同する支援者からの出資を呼びかけます。出資金は予め段階が設定されており、その出資金額に応じた“お礼”が成功の際には返されます。そして予め予定した金額に一定期間内で達しない場合は全て返金されるというのが基本的なシステムです。これはプロダクトのアイデアを素に資金を集めアイデアを実現できる素晴らしいシステムなのですが、ハードウェアスタートアップがクラウドファンディングを利用した事例では問題が多く出ているのが現実です。

なぜそんなことが起きてしまうのでしょうか。それはプロダクトの場合、開発者からしても支援者からしても、クラウドファンディングの後、ファンディング中に思っていた結果とかけ離れたものになってしまう、ということが多くあるからです。。以下ではその理由を解説していきたいと思います。

 

アイデアを世界に売るチャンスを与えたクラウドファンディング

クラウドファンディングのシステムは慈善活動やゲームや映画と言ったコンテンツの制作等ありとあらゆる分野で活用されました。これはハードウェアスタートアップにとっても魅力的なシステムでした。成功例として有名なものをいくつか挙げると、kickstarterという一番有名なクラウドファンディングサイトではPebble Smartwatch、SONYが運営している独自のクラウドファンディングサイトから生まれたwena wristなどが有名です。

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そして、デジタルファブリケーションの登場により、今までとは比べ物にならないほど高いクオリティーの試作を行うことが可能になりました。3Dプリンターによりメカ部分の部品も作ることが出来る様になりましたし、精度の高い光学造型機を使って造形し、それを塗装すればそれこそ展示用モックとほぼ同じものを作ることが出来ます。クラウドファンディングと組み合わせることでアイデアを形にするハードルはとても下がったと言えます。

一方でどうしようもならない、変わりようのない部分があります。ハードウェアはソフトウェアのように、一度発売したものに対してアップデートによって修正や機能を追加する事が出来ないので、確実に発売前に製品の作りこみや安全試験を行う必要があります。これは馬鹿にならないコストです。更に売るためには量産をしなければなりません。アプリケーションでは開発費以外の費用をほとんどかけないという選択もできますが、ハードウェアではどのくらい売れるかがわかる前に、開発費に加えて生産コストを支払う必要がありました。結果ハードウェアスタートアップはスタートアップとしてはかなりの大金を製品ができる前の段階に調達する必要があったのです。

※他にもIT系のスタートアップがリーンスタートアップと呼ばれる投資を小さく始めてだんだん大きくしていくという手法を取り資金調達もそのようなシステムで回っている中、ハードウェアスタートアップはどうしても量産の為初期段階で大きなバリューを会社につけなくてはならず、結果としてSeriesB(注1)での資本政策の選択肢や出口戦略が極端に狭くなってしまうというスタートアップとしてはかなり大きな問題を抱えていました。

製品が量産を実施する前にどの程度売れるかがわかる。更に少しだけ売れたのでたとえ赤字であっても少しだけ作らなくてはならないという最悪な状況を避けることができる。目標金額までいかなければプロジェクト自体をなかったことにできる。そういった点において、本当にハードウェアスタートアップにとってクラウドファンディングは理想的なシステムでした。

 

クラウドファンディングでも破れなかった製品開発の壁

しかしいざ始まってみるとハードウェア分野でのクラウドファンディングでは問題が多発してしまいました。クラウドファンディングではお礼が返されると書きましたが、ハードウェアのプロジェクトの場合このお礼にそのハードウェア自体、つまり製品をいつまでにお渡ししますというお礼がつけられることが多くありました。ところがこれがほとんど期限通りには出荷されませんでした。クラウドファンディングは単純な予約購入ではないので、期限通りに出荷出来ないのは置いておくにしても、あまりにも初期のイメージと違うクオリティーの低いものができあがってしまったり、そもそも出荷されないということが多発してしまったのです。

クラウドファンディングはプロジェクトの資金が足りないものを事前に出資という形で受け付けるものです。ですから、失敗もある程度あるのは仕方のないことですし、最初のイメージとある程度異なることがあっても仕方ないといえば仕方ないのですが、あまりにも多すぎました。

その原因は明白で、ハードウェアの場合基本設計が完了し実際に量産を開始する直前まで最終的に製品原価が一個いくらなのか正確に見積もりすることがほぼ不可能だからです。

よく勘違いされるのですが、仮にハードウェアの試作が実際に動いている映像があったとしてもそれが量産試作でない場合は量産しようとした時に問題が出ることがほとんどです。量産試作というのは基本設計が完全に完了したその後に行うものなので、クラウドファンディングではそこまでの資金を持っていない人がアイデアのみ、最低限の試作のみ、という形でプロジェクトを立てる場合が多いです。結果として量産試作の一歩手前の段階であるプロジェクトが増えて来て見積もりを誤ってしまうということがクラウドファンディングにあるハードウェア系のプロダクトで起こっているようです。

さらに状況を複雑にしているのが、通常の出資と異なりかなり早い段階で最終的な製品の出荷価格が決定してしまうという点です。多くのハードウェアスタートアップ系クラウドファンディングでは前述した通り、この金額の支援をしてくれた人には製品を1つ渡します、この金額では2つです、と言った感じで支援額に対するお礼を決定しています。結果、開発途中や量産の際にその価格ではコスト的に合わないという事がわかっても最終的な製品の価格を変更することが出来ないです。仮に量産試作まで完成し製品を実現できるというところまでたどり着いた報告が出ていてもダメになってしまうことがあるのはこれが原因です。赤字で出荷すればいい ということもあるのですが、クラウドファンディングで調達した金額が大きくなればなるほどそれが難しくなってきます。特にソフトウェアであればそれも選択肢の内ですが、ハードの場合生産時にキャッシュが出て行ってしまうのでかなり厳しいです。

 

新しい資金調達方法のこの先は?

このようにクラウドファンディングシステムを通して新しいプロダクトを実現していくのは一見理想的に見えるのですが難しいところがあるのです。スタートアップは夢ある斬新なプロダクトを目標として発表し、それに向けてそれだけのために会社を作り一点集中で開発を行います。そしてクラウドファンディングはその目標を投資家だけではなく一般個人に向けて発信し目標達成のための資金を集められる素晴らしい手段です。

しかしながら、クラウドファンディングを見る人々は必ずしもそのスタートアップの手法を理解しているわけではありません。クラウドファンディングに乗っている製品の目標イメージを電気屋さんで予約購入する様な感覚でお金を入れてしまう人も多いのが事実です。繰り返しになっていしまいますが、クラウドファンディングサイト上に載っているものは目標なので、全力で開発を行ったとしても最終的にそのイメージとは違うものが完成したり失敗してしまう可能性は十分にあるのです。

こうしてクラウドファンディングサイト上ではお金が集まりプロジェクトが成立するけれども結果としては“失敗”したり”イメージと違う”ことが話題になってしまっています。しかしこの問題に関しては、本来それはそういうものです、としか言いようが無いので、そもそも問題にはならないはずのものだったのです。

 

私は今までどおりプロダクトを開発・試作・量産して販売するまでを1社が調達して進めていくのはかなり厳しいと思っています。資金豊富な大企業でさえ新しいプロダクトを作るのにはコストなどの観点から難しさを感じているのに、スタートアップであれば尚更です。そんな中でクラウドファンディングというシステムはたとえ最終的に出来たプロダクトが最初に提示したイメージとは違っても、その提示した目標の一部でも今までにない新しさを生み出すことができていれば、これはものすごい価値だと思っています。

私はここで述べたクラウドファンディングや、デジタルファブリケーションを利用した作り方の革命だけでなく、プロダクトを作る際の資金政策や協力体制を構築するための契約のスキームにも新たなやり方が求められていると考えています。例えばYOKOITOで昨年発表したFAB-LENSは3Dプリンターでの製造というのが表面に出ていましたが、同時に共同開発契約書を弁護士と共同で平易なものにし今までそういった契約の経験がなくても内容を理解し権利を守れるような形で契約が結べるような体制を組みました。これについても今度書ければと思っています。法的、資金政策的な側面でも今後、YOKOITOから新しいやり方を提案していければと思っています。

 

(注1)SeriesBーこれはスタートアップが資金調達を行う段階につけられた名前です。一般的に最初の資金調達をシード→SeriesA→SeriesB→(SeriesC)→M&AorIPOという段階を踏みます。

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