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そろそろ「3Dプリンターって銃作れるんでしょ?」をやめてくれ

 

3Dプリンターに関わる仕事をしていると、3Dプリンターをよく知らない人から言われるセリフでダントツ1位のものがある。

「この3Dプリンターって銃作れるんでしょ?」

とか

「3D(さんでー)プリンターか。この前これで銃作って逮捕されたのがおったなあ?」

などである。

流石にもうその話は語り尽くされたのではないかと思っているのだが、約2年前に逮捕者が出たあの事件があってから今に至るまで、私はずっとそんなことを言われ続けている

いい加減に聞き飽きてきたので、そろそろ勘弁いただけないかという思いでこの記事を書いている。

さて、今回私が書いたことは2つである。

  • 3Dプリンターで作った銃が使い物になるのかどうか
  • 3Dプリンターの本当のすごさ・恐ろしさについて

それではまず「一応」3Dプリンターで作った銃の検証をしてみよう。

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3dprint.comより”California Bill, Making 3D Printing a Gun Without DOJ Approval Illegal, Heads to Governor’s Desk”

  • 3Dプリンターで使い物になる銃は作れるのか

「3Dプリンターって銃作れるんでしょ?」という質問を文字通り受け取り、回答するなら、答えは「作れます」ということになる。

実際に使う航空機のエンジンパーツを3Dプリントしている時代である。銃器について詳しく、CADソフトでの設計が行える人間が、金属を造形可能な粉末焼結方式の3Dプリンター数千万円〜)を用いればパーツの100%を3Dプリントで、実際に使用可能な物が作れるだろう。それでもバネや細かいネジなどは既存のままの形状で出力するのはかなり難しい。

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金属をプリント可能な3Dプリンターの一例。3D Systems社の「ProX 300」

数千万円以上もする機械で銃を作ったところで、それは素人が利用可能かどうかという点において、実際の銃器メーカーが持っている製造ラインと何の違いがあろうか。これは懸念されるような問題ではないだろう。

 

では、例の事件で逮捕された彼をはじめ、世界中で「銃を作った」と主張している人々が簡単に使うことが出来るようなパーソナル向け3Dプリンター(=FFF方式という樹脂を熱で溶かして積み重ねていくもの。金属は出力できない。家庭用のものは国内でも5万円程度〜販売されている)ではどうだろう?

この場合、答えは微妙なことになる。ポイントは「銃を作れる」というのをどう定義するかだ。

「銃を作れる」、というのが「殺傷力のある弾丸を、1発でも発射できるかもしれないものを製造可能」とするのであれば答えはイエスであるし、「一般的に使用されている銃器と同様の機能、つまりある程度連続的に殺傷力のある弾丸を発射し、標的に命中させる程度の精度を持つものを製造可能」とするのであれば答えはノーとなる。

つまるところ、家庭で使用可能な3Dプリンターでは銃器に使用される金属に比べて耐久性の低い樹脂でしか造形できないので「イチかバチか弾が前に飛ぶかもしれない」程度の代物であれば作ることができる、ということだ。もちろん自分の手を吹き飛ばす可能性もある。

銃弾というのは火薬の燃焼によって生じたガスの圧力で銃身内を進み、銃口から撃ち出されるものだが、銃弾を撃ち出すまでの間銃身には強い力がかかる。この力にプラスチック樹脂で作られた銃身では到底耐えることはできないだろう。撃つことができる形状は恐らくかなり肉厚の短銃身で、1発撃つ度に銃身を交換というものになる。

まだ大きな問題がある。装薬の燃焼と腔圧の高まりによる銃身の温度上昇は凄まじいものがあるからだ。対してFFF式のプリンターで使用される樹脂のPLAは170℃、ABSは230℃を超えればドロドロに溶けてしまう。金属の銃身を使用している機関銃でも、連続発射の際には温度上昇の対策で銃身交換を行うくらいだ。プラスチック樹脂の銃身では言わずもがなである。

銃身を交換するとなると連続での発砲は難しくなるし、短銃身になればなるほど威力・精度は低化する。

また日本国内であれば弾薬をどのようにして入手するのかも難しい問題だ。2014年に3Dプリンター等での銃製造事件で押収されたものや、彼が運営していたWebサイトを見ると、製造された銃は22口径弾という比較的威力の低い拳銃弾を使うもののように見える。だが日本国内ではその入手も大変困難だろう。では自作すると言っても、パーソナル向け3Dプリンターで精密に複合素材のものをプリントしたり、ましてや火薬を合成して炸薬を作るなんてほぼ不可能である。ここまでくると最早3Dプリンターを使うかどうかは製造過程にほとんど何の関係も無くなってしまっているわけだ。

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http://www.huffingtonpost.jp/2014/05/09/3d-printer-gun-control_n_5293251.html より

こうした理由から「ある程度まともな銃」を作るのがいかに難しいかはご理解頂けただろうか。そして逮捕された彼の経歴と、押収された銃(とされるもの)を見てみると、意外なことが見えてくる。「3Dプリンターで銃」とマスメディアが盛んに取り上げた割には、今挙げたような銃には一部金属パーツが使われているのだ。彼は町工場に7年以上の勤務経験があり、自宅にはフライス盤などの金属加工設備があったという報道もある。

また、今年記事になっていた3Dプリンターでセミオート銃を製作した(9mm弾)という話も、よくよく読むと銃身などは金属パーツを使用していることがわかる。

彼らからしても本当は全部3Dプリントしたかったのだろうが、どうしてもできなかった理由が上記だと言えるだろう。そして彼らが3Dプリントの銃にどんな価値を見出したのかは定かではないが、既存の銃の部品を用いない限りその性能はホームセンターで材料が揃うハンドメイド銃と大差無いか、劣っていただろう。

例えばミニエー弾以前、18世紀に使用されていた先込め式のマスケット銃は球体の鉛玉を黒色火薬で撃ち出すだけの、ライフリングもなく命中精度も低いものだったが、その近距離での殺傷力は現在のライフル銃よりも高かったという試算もある。3Dプリンターによる樹脂製の銃は、ほとんど全ての点でこのマスケット銃にすら勝てない。せいぜい発射速度くらいだろうか。

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http://makinghistorynow.com より

ここまでやや細かく3Dプリンターで作った銃が使い物になるのかどうか、を検証してきたが、要はこういうことである。

  • 3Dプリンターもピンキリで、すごい高級機であれば実銃同様の機能を持ったものを作ることができるが、それではもうコストが実銃の生産ラインと遜色ない
  • パーソナル向け機体では銃の全てのパーツをプリントして作るのはほぼ不可能
  • 弾薬を作るのがとても難しい(パーソナル機ではできない)
  • 「3Dプリンターって銃作れるんでしょ?」は「ホームセンターって銃の材料売ってるんでしょ?」と変わらない

 

当時3Dプリンターによる銃製造での逮捕者、というニュースがあそこまで大きく報道された背景には、特許切れによる低価格化でにわかに話題になり始めた3Dプリンターへの関心と、3Dプリンターを使えば誰でも簡単に銃を作ることができてしまうのではないかという不安があったと思う。

家庭でも小さな機械で物体を造形できるという3Dプリンターは、仕組みのよくわからない人々から見ればまるで「何でもできる魔法の箱」のようであったし、繰り返し報道されたアメリカでの3Dプリント銃動画などによって、インターネットを通じて設計図をやり取りできるのであれば銃規制が行われている日本でも簡単に銃が製造できてしまうという誤解を招いたと言えるだろう。

実際には、上でも書いたように樹脂パーツしか造形できない低価格帯のパーソナル向け3Dプリンターではまともな銃は作ることができないし、金属を組み合わせるにしても専門的な加工技術や設計技術が必要だ。

 

・3Dプリンターの本当のすごさ、恐ろしさ

だが、確かに個人でもデジタルのデータを元に造形ができるというのは今までにないことだろう。このあたりは「あたらしいものづくりを可能にするデジタルファブリケーションとは?」も読んでいただきたいのだが、インターネットを通じて3Dプリントの元となる3Dデータをやり取りすることで空間的制約を越えたり、同じデータを使うことで繰り返し同じものを造形したりできるというのは、今まで個人で行うものづくりにはあまり無かったことだ。

ここが3Dプリンターの本当にすごいところであり、恐ろしいところでもある。

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PCに接続して使用する3Dプリンター

例えばアメリカで作られたデータをインターネット経由で入手すれば、日本でも同じデータから造形が行える(=ほぼ同じものを作ることができる)。今までもののやり取りや、形状の共有を行う際には実際のものを送るしか無かった。それ以外に相手に情報を伝えようと思うと、精々できてデータとして画面の中で共有することくらいだった。

デスクの上に3Dプリンターを置いて出力しながらデザインに修正を加えていったり、遠隔地とのプロジェクトの際にオンラインで送られてきたデータをプリントしたりと、3Dプリンターがあるだけでものづくりの環境は激変する。ここがパーソナル向け3Dプリンターのすごいところである。

世界最大の3Dプリント用データ共有サイト「Thingiverse」ではスマートフォンのカバーからフィギュア、博物館収蔵品のスキャンデータまで、毎日数百ものデータがアップロードされている。アップロードされたそれらのデータは他のユーザーがプリントしたり、ライセンスの元改変したりして世界中で使われる。アイデアにアイデアが加えられ、ものの可能性が広がっていく、これはすばらしいことだ。

一方でインターネットでデータを頒布・入手できるということは、当然悪用されるリスクもある。不法行為に使う道具のデータや、テロに使われる爆弾の一部パーツなどがインターネットを通じて入手され、3Dプリントされることがあるかもしれない。これが組織だって行われると、恐ろしい話である。

しかし、そうだからといって3Dプリンターを規制すべきという話になるのは少し早計だ。それでは自動車で事故が起こるから自動車を規制しようという話と変わらないレベルに思える。

規制すべきは危険運転であり、悪用のためのデータ・その頒布であるはずだ。自動車も3Dプリンターも私たちに大きな恩恵をもたらしている。

3Dプリンターの悪用対策ということになると、インターネット上での拡散を防ぐというのが最も現実的なやり方だろう。現状はネット上に広がる海賊版への対処すらままならない状況だ。どうしたら危険なデータを発見できるのか、その判断はどのようにして行うのかなどを議論していく必要がある。

規制が必要と言われる一方で、クリエイティビティを損ねるような規制が折角の可能性を潰してしまうという懸念もある。人々の日常から見つかる多様なアイデアを即座にカタチにできる3Dプリンターが使いづらくなってしまうことは避けねばならない。3Dプリンターユーザー自身や、出力サービスを運営する事業者がこの問題について考え、行動することが最良の対策となるだろう。

 

また長くなったが、要約すると

  • 3Dプリンターの本当のすごさは空間的制約を越えられること、誰かの作ったものを再現できること
  • 身近にあることで従来とものづくりの過程が大きく変わる
  • 悪用されるリスクがあるが、3Dプリンター自体を規制するのは不合理。データの発見・拡散防止等を考える必要がある

ということである。

 

言いたいことは「家庭用3Dプリンターで簡単に銃は作れない」ということだけの話だったのに随分と長くなってしまった。

3Dプリンターで銃が作れるのかどうか、そして3Dプリンターは危険なものなのか、ここまで読んできてどう思われただろうか。様々な見解があるだろうし、これからも皆で議論していければいいと思っている。

ただひとつだけ、これを読んだあなたはもう「3Dプリンターって銃作れるんでしょ?」とは言わないで欲しい。

3Dプリンターはあくまでただのツールである。それをどう使うかは、私たち次第なのである。

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